不正薬物から国を守る麻薬探知犬 訓練を支えるハンドラーとの絆

横浜税関の麻薬探知犬とハンドラーたち
横浜税関の麻薬探知犬とハンドラーたち

日本に不正に輸入される貨物などを取り締まり、水際で安全を守る税関。活躍しているのは人間だけではない。「鼻」をきかせて活躍する、麻薬探知犬がいる。成田空港(千葉県)開港翌年の1979年、日本で初めて導入され、現在、全国で約130頭の麻薬探知犬が配備されているという。記者が横浜税関(神奈川県)で厳しい訓練をこなす麻薬探知犬の1日に密着した。(林瞬)

訓練はダミーで遊ぶことから始まる

横浜税関に所属する麻薬探知犬の活動場所は様々で、川崎にある「外郵出張所」などで国際郵便や客船荷物の検査をする。ハンドラー(操縦士)が探知犬を連れて荷物の列の周辺をまわり、不正薬物などの危険物品が紛れ込んでいないかを厳しくチェックしている。

今回、記者が訪れたのは、横浜市鶴見区大黒ふ頭にある「麻薬探知犬管理センター」。今年7月に麻薬探知犬ハンドラーとして着任したばかりの3人と、実際に活躍しているラブラドルレトリバー「ディーン」「ティップトップ」「パーディ」の3頭の訓練風景を取材した。

ハンドラーたちは毎朝午前7時に出勤し、すぐに毛繕いや排便などの犬のケアをする。特にグルーミングは大事なコミュニケーションの時間だ。皮膚病がないかなど、健康状態もチェックする。

記者も毛繕いを体験。オスのディーンはまだ2歳と若く、元気いっぱい。思ったより大きい体に驚いた気持ちが伝わったのか、少し暴れた。すると、ハンドラーの矢内優太さん(22)が「待て!」「グッドボーイ!」と声をかけた。硬めの毛並みに指を沈め、金属製のくしで体をなでつけると、徐々におとなしくなり、気持ちよさそうに目を細めていた。

ケアが終わると今度は本格的な訓練に移る。訓練で鍵となるのは、「ダミー」と呼ばれるタオルを丸めて縛り、棒状にしたものだ。

訓練は、大麻や覚醒剤など、不正薬物のにおいを染みこませたダミーで遊ぶことから始まる。ハンドラーが投げたダミーを見つけ出し戻ってくると、褒めて遊んであげる。すると、犬は「においのついたダミーを見つけると、遊んでもらえる」という意識を持つようになり、ダミーの姿が見えない草むらなどでも、見つけられるようになる。

訓練の様子を見て驚いたのは、嗅覚(きゅうかく)の鋭さだ。足早に荷物の周りをまわったかと思うと、すぐにダミーの入った荷物の近くで「お座り」をして知らせる。感心していると、探知犬はしっぽを大きく振って何かを待っている。遊んでもらうためのダミーだ。

ハンドラーがダミーをくわえさせると「もっと引っ張って!」とばかりに跳びはねながら喜んでいた。くわえたダミーを記者が持ってみると、強い力に思わず倒れそうになる。ある程度の強さでダミーを引っ張りながら走らないと、犬にとっての「遊び」にはならない。思ったよりも腕力と体力が必要で、たった3分ほどでうっすらと汗をかいた。

ハンドラーの気持ちは犬にも伝わる

麻薬探知犬ハンドラーは事務職や検査員など、違う業務から人事異動になることが大半で、それまで犬と触れあう機会が少なかった人もいるという。

約1週間前に異動してきた笛田衛さん(24)も、最初は戸惑うことが多かったという。もの言わぬ犬と関係性を構築するのは簡単なことではない。担当する「パーディ」も「炎天下で必死に遊んであげても最初は全然楽しくなさそうだった」と苦笑い。生活を共にする中で徐々に変化が訪れた。いまでは、会うとしっぽを振って喜んでくれる。絆が深まり、ダミーの発見精度も高まってきた。笛田さんは「土日の休みでも(パーディは)どうしているかな、会いたいなと思うんですよ」と笑う。

大きいものでは35キロを超える大型犬の訓練は体力勝負だ。ハンドラーたちは探知犬がくわえたダミーを全力で引っ張りながら走り回る。最重量の「ティップトップ」を担当する佐々木希さん(23)の前の職場はデスクワーク。赴任当初の2週間は「一緒に走るのも汗だくだった」と話す。犬は空気を読むのが早く、「ハンドラーが楽しくないと犬にも伝わる」ということに気づいた。ティップトップが一番楽しい遊び方を試行錯誤しながら、自分も楽しむという意識で訓練に臨んでいる。

「不正薬物の流入を水際で絶対に食い止める」ことを前提とした摘発現場は、厳しい雰囲気が常に漂う。若手ハンドラーと探知犬は、「国を守る」という大きな目標のために、日々の訓練を重ねている。

火薬のにおいが漂う荷物を見つけ、座って知らせる爆発物探知犬
火薬のにおいが漂う荷物を見つけ、座って知らせる爆発物探知犬

爆発物探知犬や警察犬 活躍の幅を広げる犬たち

水際で活躍する犬は麻薬探知犬だけではない。国際的なイベントの開催が増える中、「爆発物探知犬」も活躍の幅を広げている。訓練方法は同じで、においのしみついた「ダミー」を使う。しかしすべての麻薬探知犬が爆発物探知犬になれるわけではなく、「慎重さ」など、適性が求められるという。

県内で年約600件の出動数を誇る警察犬。麻薬探知犬とは、似ているようで訓練方法は全く異なる。「逮捕訓練」があるからだ。警察犬はにおいをたどって犯人を「見つける」だけではなく、その後の逮捕の補助も担う。犯人を想定した人間の前に立ちふさがって激しくほえたり、凶器を奪い取ったりする「特別訓練」をこなしている。

Sippo 11月6日 引用