ベトナムの犬食に逆風 当局「残酷で観光客に悪い印象与える」

 ベトナムで盛んだった犬の肉を食べる習慣に包囲網が敷かれ始めている。食べるのを控えるよう当局が呼びかけ、外国からの風当たりも強い。庶民が愛する食文化は終わりを告げるのだろうか。

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 ハノイ市郊外ハタイの通り沿いの「犬市場」では、一頭まるごとローストした犬肉を並べた店が30軒ほど並ぶ。店主のタック・チュンさん(56)が注文に応じて頭部の骨を袋に入れた。1キロ4万ドン(約190円)。買いに来た近所の女性(62)は「カボチャと一緒にスープにするよ」。

 犬肉はティット・チョーと呼ばれ、販売は合法。特にハノイを含む北部では、ビールのつまみに犬肉を出すビアホイ(居酒屋)や犬肉料理専門店があちこちにある。ハタイの市場では店先のおりに入った犬を選んでさばいてもらえるため、「新鮮な肉が手に入る」と毎日仕入れに来る店主もいる。

 チュンさんの店では南部からトラックで運ばれてくる犬を10キロあたり100万ドン(約4800円)で仕入れる。1日10匹分が売れる。「犬肉が悪運を落とす」といわれる旧暦の月末は、30匹分が飛ぶように売れる。

犬鍋、犬のローストなどが書かれた犬肉料理店のメニュー。「お客は40~60代が中心。若い人は別のものを選ぶようだね」と話す店主のカインさん

 母乳が出にくい女性は犬の足を食べるとよいとの伝承もある。「頭からしっぽまで、犬は無駄にならない食材だ」とチュンさん。

犬食は「近代化都市として観光客に悪い印象」
 だが、逆風が吹き始めた。ハノイの人民委員会が2018年9月、「犬猫の肉を食べないで」と呼びかける声明を出したのだ。「犬や猫を殺したり売買したり食べたりすることは残酷で、文明化・近代化した都市として観光客らに悪い印象を残す」

 21年までに市中心部から犬肉を出す店を一掃する、という市幹部の発言も報じられている。声明を出した理由は不明だが、国内外の動物愛護団体が働きかけを続けてきたとされる。

 豊かになってペットを飼う人も増えた。チュンさんも以前は店頭でした犬の解体処理を人目につかない店の裏手でするように変えた。だが禁止措置には反対だ。「犬肉はベトナムの伝統的な食文化だ。世界には豚を食べない人もいれば馬を食べる人もいるのと同じ。絶対になくならないよ」と話す。

タイでは禁止、入手困難に
 複数の動物愛護団体でつくるアジア犬保護同盟(ACPA)によると、ベトナムの犬肉消費量は年500万匹。中国に次ぐ世界2位の消費国ともいわれる。

 価格は鶏や牛と同程度で高級食材ではなかったが、最近は値段が上がり、ハタイでは1キロあたり14万ドン(約670円)と10年で約4倍に。理由の一つは近隣国から犬を入手しにくくなったことだ。

 ハノイから約150キロ離れた北部タインホア省サンドン村を訪ねると「犬肉あります」と書かれた家の前庭に空っぽの犬用おりが積まれていた。

 ベトナムで食べられる犬は、同国南部のほかタイやカンボジアなどから調達されていた。サンドンはこれらの犬肉を各地に卸す拠点だったが、数年前から廃業が相次ぐ。業者の男性は「タイやラオスから犬が輸出されず、商売が成り立たない」と話す。タイでは14年にできた法律で犬を食用にするため殺すことが事実上禁じられ、タイからラオス経由での犬の輸出も取り締まり対象になった。

 愛護団体の圧力も大きい。ACPAは、野良犬や飼い犬が許可なく集められ「残酷に殺されている」として、15年から署名を集め、ベトナムに犬肉の流通や消費を禁じるよう促してきた。

 犬から人への病気感染の懸念もある。日本で60年以上発生例がない狂犬病の対策はベトナムでは万全でなく、18年は86人の死者が出ている。犬の運搬や解体の際にも感染する恐れがあるとされる。

 動物愛護団体ヒューマン・ソサエティー・インターナショナルベトナムのタム・ホン・フォンさんは「ワクチン接種だけでなく適切な環境下で犬を管理する必要がある。食用となる犬が南部から北部へと大量に移動する状況下で、狂犬病などの問題はなくせない」と話す。

Sippo 5月13日  引用